青森に春を告げる海鮮のひとつが、トゲクリガニ。甲羅のふちにトゲがあり、見た目は毛ガニによく似ています。
「陸奥湾の毛ガニ」とも呼ばれるように、主産地は津軽半島と下北半島に囲まれた陸奥湾です。
地元の人たちに愛され、青森の誇るブランド食材「七子八珍(ななこはっちん)」に選定されています。
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トゲクリガニは毛ガニの仲間
トゲクリガニは、成長すると甲羅の縦幅が8cm、横幅が10cmほどになるカニです。小ぶりながら「陸奥湾の毛ガニ」と呼ばれるだけあり、毛ガニとそっくりの容姿をしています。それもそのはず、どちらもクリガニ科の一種なのです。見た目でわかる違いは、甲羅の形。毛ガニはやや縦長で丸みを帯びているのに対し、トゲクリガニはやや横長の五角形です。ちょっとややこしいのは、クリガニという近縁種がいること。形も大きさもトゲクリガニとほぼ同じで、なかなか見分けがつきません。ただ、生息域が異なり、トゲクリガニは津軽海峡や三陸沿岸に多く、クリガニは北海道以北の冷たい海に分布しています。青森で水揚げされるのがトゲクリガニと、覚えておけば間違いないでしょう。
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トゲクリガニは花見の肴に
青森では、4月から6月にかけてトゲクリガニ漁が最盛期を迎えます。特においしく味わえるのが、4月下旬から5月上旬。ちょうど桜の見ごろと重なるため、地元では「花見ガニ」「桜ガニ」と呼び習わし、お花見に欠かせない食材のひとつとして親しまれてきました。春を感じる珍味として「七子八珍」に選定されていることからも、人気ぶりがうかがえます。産地としてとりわけ有名なのが、外ヶ浜町蟹田地区です。10日間という漁期のほか、仕掛けるカゴの個数や漁獲量など厳格なルールが定め、貴重な水産資源として守っているといいます。そんな「蟹田のトゲクリガニ」は、ちょうど漁期にあたるGWごろに開催される「蟹としろうお祭り」で、もうひとつの春の味覚「しろうお」とともに楽しめます。
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太宰治が好いてやまない「蟹」
青森の生んだ文豪のひとり、太宰治。ふるさとの津軽地方を旅して書いた『津軽』には、トゲクリガニが出てきます。蟹田町(現・外ヶ浜町蟹田地区)のN君の家を訪ねたくだりで、「私は蟹が好きなのである。どうしてだか好きなのである。蟹、蝦、しやこ、何の養分にもならないやうな食べものばかり好きなのである」と独白し、用意されていた「好物の蟹の山」を前に、「食べ物に無関心たれといふ自戒を平気で破つて、三つも四つも食べた」というのです。その味については、「けさ、この蟹田浜からあがつたばかりの蟹なのであらう。もぎたての果実のやうに新鮮な軽い味である」と述べています。この「蟹」こそが、トゲクリガニです。そして、「蟹田のトゲクリガニ」といえば、いまやブランド蟹。地元の店でしか食べられません。太宰の旅程をたどりながら、トゲクリガニを求める旅はいかがですか。
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トゲクリガニは
浜ゆでがよし、甲羅酒もよしトゲクリガニは、見た目だけではなく味も毛ガニに似ています。その身は繊細で甘く、カニ味噌は濃厚。メスの内子(卵)はプチプチコリコリとした食感でコクがあり、格別な味わいです。おすすめはなんといっても、浜ゆで。塩でゆでるだけのシンプルな調理法ですが、それだけにトゲクリガニそのものの味が楽しめます。相性がいいのは、やはり日本酒です。青森には「田酒」をはじめ名酒がそろっていますから、お好みの銘柄と組み合わせて味わいましょう。食べ終わったあとは、ぜひ甲羅酒を。濃厚なカニ味噌とすっきりとした日本酒の風味があいまって、旨いこと間違いなしです。
北海道民がこよなく愛する魚のひとつ、ほっけ。クセがなく、焼いてよし、煮てもよし、揚げてもよしのオールラウンダーで、
メインのおかずから酒の肴までバラエティ豊かに食卓を彩ります。一年を通して水揚げされ流通しているほっけですが、
旬は春。これからが、とりわけおいしくなる季節です。
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ほっけの本名は
「ホッケ」と「キタノホッケ」北海道をはじめ日本国内で流通するほっけは、大きく分けて「真ホッケ」と「縞ホッケ」の2種類があります。真ホッケの正式な種名は「ホッケ」。主な生息域は北海道近海で、なかでも羅臼・礼文・積丹はよく知られている産地です。北海道に桜が咲くころから脂のりがよくなるといわれ、淡白ながら旨みのある上品な味わいが、多くの人に愛されています。一方の「縞ホッケ」は体に縞模様があるのが特徴で、その見た目からそう呼ばれていますが、正式な種名は「キタノホッケ」です。寒冷な水域を好み、主にオホーツク海からアラスカのベーリング海にかけて生息しています。肉厚で脂ののりがよく、焼いたときのジューシーさがたまりません。
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ほっけはまるで出世魚
ほっけは、出世魚のように成長するにつれて名前が変わります。最初の呼び名は「アオボッケ」。その名のごとく、美しいコバルト色をした体長4〜16cmほどの幼魚を指します。一説によると、アオボッケが群れで海面近くを泳いでいると、花が咲いたように見えることから、ほっけの漢字は「𩸽」になったのだといいます。次の呼び名は、「ローソクボッケ」。体長18〜22cmほどまで成長した1年魚で、この頃から海底付近を群れで回遊する底生生活に入ります。そこからさらに成長し、体長23〜25cmほどになった2年魚が「ハルボッケ」です。そして、最後が「根ボッケ」。回遊をやめて、エサの豊富な岩礁に定住するため、体が大きくなり、なかには体長60cmを超えるものもいます。
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桜の季節に発生する
「ホッケ柱」北海道に桜前線が到達する4月下旬、奥尻島や利尻島の近海では「ホッケ柱」という珍しい現象が見られます。数万匹ともいわれるほっけの大群が立ち泳ぎをしながらつくる、いわば海中の巨大な竜巻。鳴門海峡の渦潮のようなイメージでしょうか。なぜほっけたちが集団でそのような行動をとるのかというと、春になると海面で大発生するプランクトンを捕食するためです。研究によって解明されたメカニズムは——。一匹一匹が立ち泳ぎをすることで下向きに強い流れ(下降流)が生じ、水面近くでは下降流の中心へと集まる流れ(収束流)が生じます。それにより海面には巨大な渦ができ、プランクトンを海の底まで引き込むため、ほっけは、海鳥などの外敵がいる海面に近づくことなく安全に捕食できるのです。
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函館で食べるなら
「ほっけの刺身」ほっけといえば、「ほっけの開き」でしょう。干物が真っ先に思い浮かぶ魚ですが、そのイメージに違わず、ほっけの多くは加工されて流通しています。というのも、ほっけは鮮度が落ちやすいから。かつては、干物でさえも敬遠されていた不遇の時代があったといいます。ところが、近年は食品の冷蔵輸送技術や鮮度保持技術の発展により、道外にも生のほっけが出荷されるようになりました。なかでも抜群の鮮度のよさで知られているのが、「海峡根ボッケ バキバキ」。津軽海峡に臨む函館市恵山地区で水揚げされるブランドホッケです。バキバキとは、生きのよさを表す浜言葉。名は体を表すとはこのことで、函館市内には、刺身で提供している飲食店もあるほどです。産地でしか味わえない「ほっけの刺身」をぜひ!
「陸奥湾のトゲクリガニ」は、
オスの甘い身もメスの濃厚な卵も旨い!
寒さが緩んだ3月中旬、トゲクリガニの主産地のひとつ、
青森県上北郡野辺地町を訪れました。
トゲクリガニ漁の最盛期を目前にして、活気にあふれる野辺地港。
ここに水揚げされる陸奥湾のトゲクリガニの魅力に迫るため、
皆川さんにお話を聞きました。
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- 津軽海峡って、どんな漁場ですか?
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津軽海峡はマグロの漁場です。昔は船乗りだったから外海も行きましたが、遠洋漁業船の船乗りを45歳でやめて漁師になってからは陸奥湾の外にはほとんど出ていません。トゲクリガニの漁場は津軽海峡の手前の陸奥湾ですから。
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- 陸奥湾のトゲクリガニの特徴は?
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今年はイワシがすごく多いのですが、そのイワシや貝類などを食べて育つからおいしいのだと思います。特にホタテを良く食べてるようですし。毛ガニと似ているとよく言われますが、食べてみるとやっぱり違って、濃厚な気がしますね。夏に獲れるヒラカニ(ガザミ)ともまた違いますから。
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- イチオシの食べ方を教えてください。
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花見時期になると、茹でガニやカニ汁などいろいろあります。たいてい茹でて食べますが。カニ汁にするなら、脱皮したあとのカニがいい。5月の連休ごろは、メスガニの卵(内子)を好んで食べる人がけっこういます。あれは、食べると病みつきになる人も。いまの季節(※)はまだ卵が入っていないですが、花見時期に食べてもらえば、おいしさがわかると思います。
※取材時の3月中旬
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- 野辺地の漁師にとってトゲクリガニとは?
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陸奥湾内でいちばん自慢の海産物ですね。だいたい3カ所くらいに網を仕掛けておいて、朝5時半ごろに引き揚げに行きますが、50kgぐらい獲れますね。1年に数回、一晩で150kgも獲れることがあって、あれはびっくりしますよ。船がカニでいっぱいになったから。いまは漁協組合が販路を広げていて、東京や九州でも青森のトゲクリガニが売られてるみたいですね。
- 取材協力
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野辺地町漁業協同組合
青森県上北郡野辺地町字野辺地 568
Tel: 0175-64-2264
恵山の誇る「根ぼっけ」は、
鮮度が抜群にいいから刺身が旨い!
3月中旬、春のほっけ漁が始まった函館市恵山地区を訪れました。
鮮度が落ちやすいほっけを独自の鮮度保持方法でブランド化した、
えさん漁業協同組合の漁師たち。
彼ら自慢の「海峡根ボッケ バキバキ」について、
佐藤さんにお話しを聞きました。
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- 津軽海峡って、どんな漁場ですか?
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黒潮から分かれた対馬暖流と寒流の親潮がぶつかり、プランクトンが群集する好漁場です。魚介類が豊富なので、昔から「恵山魚田(えさんぎょでん)」といわれています。もちろん「ほっけ」の漁場としてもいい条件がそろっています。
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- 津軽海峡の「ほっけ」の特徴は?
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僕らが狙っている根ぼっけは、オキアミのほか、カニやエビなどの甲殻類をたくさん食べて、岩礁域(海水中の岩場)で活発に動いています。だから、おいしい。身そのものの味がかなり濃くて、目をつぶって食べても、「これはほっけだな」って僕らはわかります。そのくらい身に旨みがあるのです。
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- イチオシの食べ方を教えてください。
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やっぱり刺身ですね。僕らは、鮮度にこだわった漁をしていて、獲ったあとも鮮度保持を徹底しています。ちょっと詳しく話すと、刺し網を入れてから巻き上げるまでが約2時間と、短時間しか網を入れていないので、水揚げしたとき、「ほっけ」は全て生きているんです。それを素早く網から外して、水氷に浸けることによって鮮度を保ちます。地元の言葉で鮮度の良さを意味する「バキバキ」を使い、「海峡根ボッケ バキバキ」と名付けました。鮮度が極端にいいことが自慢なので、刺身で食べてほしいですね。
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- 恵山の漁師にとって「ほっけ」とは?
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僕は「ほっけ」を獲って生計を立てているわけですから、お金に見えますけど(笑)。まあ、それはさておき、実際のところは、消費者のみなさんによりおいしい「ほっけ」を届けたくて、網入れの時間を短くして、鮮度保持に力を入れて、「海峡根ボッケ バキバキ」としてのブランド化を図って20数年、ようやく認知されてきました。僕らが自信を持ってお届けするブランド魚ですね。
- 取材協力
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えさん漁業協同組合
北海道函館市大澗町51番地4
Tel:0138-84-2231