ツガルカイセン-2023 秋の陣-

鯖の写真

青森の鯖(さば)

秋、青森の鯖がもっともおいしくなる季節です。主な水揚げ港は八戸港。
その歴史は古く、江戸時代に始まり、漁港・交易港として発展しました。
例年9月になると海水温が急激に低下するため、脂を蓄えて丸々とした鯖が水揚げされます。
その脂のりは日本一とも称され、とろける旨みがたまりません。

鯖をよむ、鯖を詠む

世界遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」の構成資産である「三内丸山遺跡」。これまでの発掘調査から縄文人の食生活が明らかになり、鯖が食べられていたことがわかっています。また、現在の福井県小浜市から京都へと続く若狭街道は、鯖が多く運ばれたため、「鯖街道」と呼ばれました。このように時代や場所は変われども、人類の食を支えてきた鯖。大量の鯖を数えるとき、間違って多く数えがちだったといい、そこから「鯖をよむ」という慣用句が生まれたのだとか。「よむ」といえば、鯖は季語でもあり、俳句に詠まれてきました。鯖の旬即ちこれを食ひにけり(高浜虚子)、男なら味噌煮と決めよ秋の鯖(吉田汀史)——なるほど、俳句になっても鯖はいかにもおいしそうです。

さば

青森の鯖は
「マサバ」と「ゴマサバ」

ひとくちに鯖といいますが、日本で水揚げされるのは2種類です。ひとつがマサバ(真鯖)。マグロの体型のような紡錘形で、背は青緑色、腹は銀白色です。回遊魚であり、太平洋では産卵場の伊豆諸島周辺からエサ場の三陸、北海道東部沖までの間を初夏に北上して、秋に南下します。もうひとつの種類がゴマサバ(胡麻鯖)。マサバの近縁種で、見た目はよく似ていますが、やや小型で、腹部にゴマのような黒点が多数あります。断面が円形に近いことからマルサバと呼ばれることも。暖かい海を好みますが、マサバとほぼ同じ海域を同じような季節に回遊します。それゆえに混獲(目的とは異なる魚を捕獲すること)も多く、統計上はまとめて「サバ類」として集計されるそうです。

マサバ、ゴマサバのイメージ

「八戸前沖さば」は、
なぜおいしいのか

夏から秋にかけて、青森県の太平洋沖は鯖の好漁場となります。八戸市から約50kmの沖合を八戸前沖といい、そこから八戸港に水揚げされるのが、ブランド魚「八戸前沖さば」です。認定しているのは、八戸前沖さばブランド推進協議会。毎年、水揚げ状況や魚体の重量、脂肪分などを参考に漁獲期間を定めています。そのときの脂肪分の目安は15%以上、600gを超える鯖では30%になるものも。それほどまでに脂肪分が多いのは、9月になると八戸前沖の海水温がぐっと下がるからです。冷たい北の海に育まれた「八戸前沖さば」は、「日本一脂ののった鯖」との呼び声が高く、「鯖の大トロ」とも。とくに550g以上の大型のものは、プレミアムブランド「銀鯖」として認定されます。

八戸前沖さば

〆鯖から鯖缶まで、
鯖料理アラカルト

「鯖の生き腐れ」ということわざがあるほど、鯖は鮮度の落ちやすい魚です。そのため、多くは〆鯖や鯖の缶詰として加工されます。本州最北の鯖の漁場がある八戸市でも、〆鯖の製造が盛ん。そのほか、20℃以下の低温でじっくりと燻す「鯖の冷燻」もあります。しかし、「八戸前沖さば」は新鮮さにも定評があります。なぜなら、漁場と八戸港が近く、新鮮なうちに水揚げできるから。しかも、漁獲後すぐにマイナス50℃で冷凍された鯖なら、刺身や漬け丼で食べられます。旨みがより味わえるのは、香ばしく焼きあげた串焼き。日本酒とも相性が良いので、青森自慢の地酒と一緒に味わいたいところです。酒の肴にもおやつにもなるのが、鯖缶アレンジ。南部せんべいに缶詰の鯖をのせるのが、八戸流なのだとか。

鯖の串焼き
ぶりの写真

北海道の鰤(ぶり)

今年もみなみ北海道に鰤がやってきました。
鰤の産地としては北陸や九州が有名ですが、近年、北海道での水揚げが増えています。
2020年には年間漁獲量で全国トップに躍り出ました。
とりわけ函館では2010年ごろから漁獲量が増え始め、
いま、鰤の活用が少しずつ広がり、新たな食文化として根づきつつあります。

鰤といえば「出世魚」

成長に伴って呼び名の変わる魚を「出世魚」といいますが、その代表格が鰤です。北海道から九州までの日本全国を回遊するため、地域によってさまざまな呼び方があります。正確な分類は難しいもののおおまかには、関東でワカシ(ワカナゴ)→イナダ→ワラサ→ブリ、関西でモジャコ(稚魚)→ツバス→ハマチ→メジロ→ブリと変化します。鰤の一大産地・長崎県は関東と同じ、ブランド魚「ひみ寒ぶり」の産地・富山県はコヅクラ→フクラギ→ガンド→ブリ、函館はフクラギ(フクラゲ)→イナダ→ワラサ→ブリとなります。また、天然ものをブリ、養殖ものをハマチと呼ぶ場合も。出世魚ゆえに鰤は縁起ものとされ、関西や北陸、九州では正月膳に欠かせませんが、北海道でもお祝いごとの魚になっていくのでしょうか。

ぶり

なぜ、イカのまち・函館で
鰤が熱いのか

「イカのまち」として知られている函館。その呼び名に違わず、イカ類の漁獲量は全国トップクラスのシェアを誇り、年間5万トンを超える時期もあったといいます。ところが、2010年代から漁獲量は減り続け、この10年で10分の1ほどになってしまいました。対照的に、漁獲量が増えているのが鰤です。わずか10年の間におよそ8倍、北海道全体ではなんと30倍に。その一因と考えられているのが、地球温暖化による海洋環境の変化、つまり、海水温の上昇による生息域の変化です。それに対応すべく立ち上げられたプロジェクトが「北海道ブリリアントアクション」。北海道民にはあまりなじみのなかったブリ食文化を育みながら、豊かな海を未来へ残す取り組みが、函館で始まり、いま大きなうねりとなりつつあります。

ぶり

写真提供/おいしい函館

ブランド魚
「函館戸井一本釣活〆鰤」とは

鰤は日本全国の沿岸に分布し、季節によって生息域を変える回遊魚です。日本海を通り、北海道へは夏から初冬にかけて来遊し、その後は能登半島付近まで南下します。10〜15℃以上の温かい海を好む鰤にとって、厳冬期を北海道で過ごすのは難しく、たっぷりと脂肪を蓄える冬本番を前に離れていくのです。そのため、函館で獲れる鰤はやや小ぶり。重さ3kg以上のものをブリ、それに満たないものをイナダと呼んでいます。なかでも、一本釣り漁が盛んな函館市東部の戸井地区で水揚げされるのが、ブランド魚「函館戸井一本釣活〆鰤」。船上で活〆処理をするため、鮮度が良く、天然ものらしいさっぱりとした脂が旨いと評判です。おすすめはお刺身。醤油やワサビをちょっと付けて食べると甘みが感じられます。

函館戸井一本釣活〆鰤

みなみ北海道流ブリ料理の誕生

鰤料理の定番といえば、ぶり大根やぶりの照り焼き、ぶりしゃぶ。しかし、かつての北海道では鰤の水揚げが少なく、なじみの薄い魚だったため、あまり食べられていませんでした。消費量は全国平均の半分以下。漁獲量の増えていく鰤を前に、まずは鰤に親しんでもらおうと「北海道ブリリアントアクション」が始動します。函館市内の和食料理店の板長を中心としたチームが鰤メニューの開発に取り組み、試行錯誤の末に誕生したのが、「函館ブリたれカツ」です。油で揚げる前に鰤を牛乳に浸すというひと手間を加えることで、特有の臭みが消え、身もふっくらしています。さらに、「函館ブリたれカツバーガー」や「函館ブリ塩ラーメン」、地元企業が鰤の燻製やフレークなど、函館産鰤の特徴を生かした料理や商品が続々と生まれています。

函館ブリたれカツバーガー

寿司と地魚料理 サバの駅

駅長沢上 弘さん

地元料理人のインタビュー動画へ 寿司と地魚料理 サバの駅 駅長沢上弘さん

「八戸前沖さば」は、
生で食べられるから
漬け丼が旨い!

青森県八戸市は、古くから鯖の産地として知られています。
その地で、旨い鯖をよりおいしく味わってほしいと、新たな料理を開発してきたのが、沢上さんです。
料理人の惚れ込んだ「八戸前沖さば」の魅力をお聞きしました。

料理人から見た「八戸前沖さば」とは?

食材としての魅力は、まず、活きが良いこと。「八戸前沖さば」の漁場である八戸前沖は、八戸漁港から40㎞~50㎞ほどの沖合です。新鮮なうちに水揚げされるため、良い魚が手に入るのです。次に、脂のりが良いこと。八戸前沖は北緯40度30分と緯度が高く、水温が低いため、鯖は脂肪を蓄えているのです。そして、DHA・EPAという不飽和脂肪酸が豊富なこと。どちらも魚の脂肪に含まれていますが、脂肪分が多いほど含有量も増える傾向があります。「八戸前沖さば」の脂のりの良さとDHA・EPAの多さは、日本一と言っても差し支えありません。なぜ言い切れるのかというと、測定したからです。ある大学の協力のもと、日本全国の鯖を取り寄せて、データを出してもらいました。その結果、比較にならないほど圧倒的に、「八戸前沖さば」のDHA・EPAが多かったのです。理由はちょっとわからないのですが、寒くなる時期にやってきて脂肪を溜めこむからかもしれません。

八戸の鯖の旬は秋です。以前は10月ごろが最盛期だったのですが、2011年の東日本大震災以降は、海の状況が変わってしまったのか…、時期が少し遅くなりました。いまは12月に入ってからもけっこう獲れます。

「八戸前沖さば」ポスター 沢上弘さん
どのように調理するとおいしいですか?

八戸では、「さばの味噌煮」「〆さば」「焼きさば」が家庭料理の定番です。シンプルながら、味噌や酢、塩が、鯖の味をうまく生かしていると思います。鯖は日本全国で食べられていますから、いろいろな料理がありそうでいて、わりとない。料理のバリエーションは少ないのです。だから、2008年に八戸前沖さば料理専門店「サバの駅」を始めたときから、試行錯誤を重ねて、新しいさば料理を開発し続けてきました。日本一の八戸前沖さばをいろいろな調理法で楽しんでいただきたいですからね。

鯖の調理風景
自慢のさば料理を教えてください。

日本の鯖ブームを牽引したと自負しているメニューが、「銀さばの串焼き」です。八戸前沖さばのなかでも大型で、より脂のりの良い「銀鯖」を使用した一品で、旨みが凝縮されています。あとは、「サバの味噌じめ」。これは、数日間、薬味を入れた味噌に漬け込んでつくりますが、生ハムのような食感です。

そして、「八戸銀サバ漬け丼」。銀鯖を下ろして、割り醤油に漬け込み、骨を全部抜いて、切って、ごはんの上に乗せて、薬味を振りかけて食べるという、至ってシンプルな料理です。最大の特徴は、銀鯖に火を一切通していないこと。アニサキス対策のために冷凍はしますけれども、生で食べられるように工夫しています。鯖というのは、「鯖の生き腐れ」のことわざどおり、鮮度が落ちやすく、食あたりのリスクが非常に高い。だから、関東以北には生で食べる習慣がありません。それをあえて生で食べようというわけですから、不安はありました。でも、絶対に食あたりしない方法を模索して、漬け丼を完成させたのです。その方法ですか? それはもう企業秘密です。

そこまでして「八戸銀サバ漬け丼」を開発したきっかけのひとつが、「サバの駅」の看板メニューをつくりたかったから。もうひとつが、2009年から東京ドームで開催されている物産展「ふるさと祭り東京〜日本のまつり・故郷の味〜」の「ご当地どんぶり選手権」というイベントに出店するためでした。苦労したかいがあって、多くの来場者に絶賛していただき、なんと2016年・2017年の2年連続でグランプリを受賞、見事に殿堂入りを果たしました。たくさんのお客さんが、いまも八戸まで「八戸銀サバ漬け丼」を食べに来てくださいます。これから秋に向かうにつれ、八戸の鯖はますます脂がのってきますから、最もおいしい時期にぜひ召し上がっていただきたいです。

八戸銀サバ漬け丼
寿司と地魚料理 サバの駅

取材協力
寿司と地魚料理 サバの駅
青森県八戸市六日町12 大松ビル1階
Tel:0178-24-3839
営業時間/17:00〜22:30(L.O.22:00)

WEBサイトを見る ▶︎

津軽海峡の旨いは、
地元料理人に聞け!

青森の「鯖(さば)」、北海道の「鰤(ぶり)」
地元の料理人が食材の魅力を動画でご紹介。

炭火割烹 菊川

花板菊池 隆大さん

地元料理人のインタビュー動画へ 炭火割烹 菊川 花板 菊池隆大さん

津軽海峡の鰤(ぶり)は、
身が締まり、
味が濃いから旨い!

北海道には、最近まであまり鰤を食べる習慣がありませんでした。
ところが、いま、函館を中心に鰤食文化が花開こうとしています。それを牽引するのが、菊池さんです。
津軽海峡に育まれる鰤の魅力をお聞きしました。

料理人から見た「津軽海峡の鰤(ぶり)」とは?

津軽海峡といえば、マグロが有名ですよね。それだけプランクトンが多く、好漁場なのです。いろいろな魚が集まってきますから、魚種も豊富で、エビやカニ、貝類もいます。それらを食べて育つから、小さめの鰤でもものすごく身の味が強い! それに、津軽海峡は潮の流れが速いから、身質がしっかりしています。なので、歯ごたえがあり、魚でありながら肉っぽい。ほかの地域の鰤とはちょっと違う食感だと思います。

夏休みの始まるころから、鰤の若魚であるイナダが獲れるようになります。豊かな海でエサを食べながら成長した鰤が、一番おいしくなる時期は、夏から10月後半ぐらいにかけてです。

菊池隆大さん
どのように調理するとおいしいですか?

鰤は、お刺身でもしゃぶしゃぶでも、塩焼きにしてもおいしいです。氷見(富山県氷見市)をはじめ鰤文化の根づく地域では、ぶり大根も定番料理ですが、北海道ではまだまだなじみがないかもしれません。いま、函館名物のイカの漁獲量を追い抜くほど鰤が獲れているので、北海道にもぶり料理を根づかせたいですね。

鰤をおいしくするコツは、調理の前の下処理にあります。先ほどお話したとおり、津軽海峡の鰤はとくに身質がしっかりしているので、小さいお子さんや年配の方々にはちょっと硬いと感じるかもしれません。また、青背(あおぜ/青魚のこと)独特のくさみがありますから、苦手な人もいるでしょう。下処理をすることで、硬さもくさみもやわらぎますから、家庭で食べるときもひと手間かけるようにしてくださいね。

ぶりの調理風景
自慢のぶり料理を教えてください。

2020年に開発した「函館ブリたれカツ」です。近年、地球温暖化の影響で海の環境が変わり、函館では鰤の漁獲量が増えています。ところが、地元の人たちにはあまりなじみがありません。そこで、まずは鰤に親しんでもらおうと「北海道ブリリアントアクション」という取り組みが始まりました。その活動の一環として、新しい料理を考案したのです。

やはり意識したのは、食べやすさ。下処理として、まず、牛乳やホエイ(乳清)に15分ほど漬け込みます。このひと手間により、独特の生ぐさみがなくなるのです。次に、函館の名産品である昆布から抽出したエキスに漬け込みます。昆布エキスでマリネすると、鰤の身がふわっとした仕上がりになるのです。津軽海峡の鰤のしっかりとした身質を生かしながら、誰もが食べやすい一品になりました。

僕は、7年ほど前から函館の鰤を積極的に使っています。いろいろな料理にすることで、函館の漁業を支えたいですね。これから秋が深まると、津軽海峡の鰤が一年で一番おいしくなりますから、ぜひ食べにいらしてください。

函館ブリたれカツ 函館ブリたれカツ
炭火割烹 菊川

取材協力
炭火割烹 菊川
北海道函館市五稜郭町32-19 久米センタービル1F
Tel:0138-55-1001
営業時間/17:00〜24:00(L.O. 23:30)

WEBサイトを見る ▶︎

津軽海峡の旨いは、
地元料理人に聞け!

青森の「鯖(さば)」、北海道の「鰤(ぶり)」
地元の料理人が食材の魅力を動画でご紹介。

TOPへ戻る